Weekday B. Morning

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2026/7/7

それでも書き上げる第九

自画像を描き続けた画家がいる。ウィリアム・ユーターモーレン、アメリカの画家で、1995年ごろアルツハイマー型認知症と診断された。診断のあとも、彼は自分の顔を描くのをやめなかった。年を追うごとに絵は変わっていく。輪郭がぼやけ、色数が減り、目からは焦点が消えていく。最初は普通の肖像画だったものが、最後には線と染みの集まりのようになる。本人が意図して単純化したわけじゃない。自分で自分を見る力そのものが少しずつ失われていく過程が、そのままキャンバスに残っただけだ。2001年ごろ、筆を持つこと自体が難しくなるまで、彼は描き続けたという。 僕らはたぶん、調子のいいときにしかいい仕事はできないと思い込んでいる。頭がはっきりして、自分が何をしたいか分かっていて、初めて手を動かせる、と。でもユーターモーレンの絵を見ると、それが逆でも成立するのが分かる。むしろ自分の輪郭が崩れていく過程そのものが、他の誰にも描けない仕事になっている。感覚が壊れていく最中にしか残せないものが、確かにある。 自分の気持ちがよく分からない日、机に向かっても手が止まる日がある。そういう日は何も進まない気がしてやめてしまうけど、分からないまま動かした手の跡のほうが、後になって一番意味を持つこともある。 窓の外の光を追いかけているうちに、自分が何を求めていたのかがだんだん聞こえなくなっていく。それでも足は止まらない。 徐々に聴こえなくなる 自分の気持ち まるでベートーベン それでも書き上げる第九 ——RAq「Moth」

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