2026.07.02
ふきとばしていく
「モヤモヤの正体を言葉にすれば、道は開ける」——日記アプリの通知にも、カウンセリングのキャッチコピーにも、だいたいこの一文が入っている。名前をつければ輪郭が掴め、輪郭が掴めれば対処できる。この理屈は、もう疑う余地のない前提として僕らの生活に溶け込んでいる。眠れない夜に「何が足りないんだろう」と自問することを、ほとんど反射でやってしまう人は多いと思う。
でも、名前をつける作業には副作用がある。輪郭を与えた瞬間、モヤモヤという物足りなさは「今夜のうちに片付けなきゃいけない案件」に格上げされる。原因を突き止めようと座り込んでいる間に、時間は過ぎていく。終電は出て、機嫌のいい時間帯は終わってしまう。言語化は解決の入り口であると同時に、足止めの入り口でもある。
ポケモンに「ふきとばし」という技がある。相手を場から強制的に退場させる技で、ダメージを与えて倒す技ではない。原因を消すのではなく、原因をその場から追い出すだけ。攻略にはならないけれど、次のターンには進める。
逃げているだけじゃないかと言いたくなるかもしれない。でも放置するのと、場外に出すのとは違う。放置は突き止める作業を先延ばしにしているだけだ。モヤモヤは居座り続け、夜はそのぶん占領されていく。
ふきとばしは占領させない。原因はそのまま残っているかもしれないが、少なくとも今夜という持ち時間からは出ていく。次のターンに進めるのは、消したからではなく、退場させたからだ。
物足りなさの正体を突き止めるより先に、物足りなさそのものを場外に出してしまう。名指しせずに終わらせる。そのやり方があってもいいと思わせる一節が、この曲にはある。
I got that something, something, something / Something that you want / 言葉にできない その物足りなさも / ふきとばしていく まるでピジョット / I got the vision
——RAq「Something」
▷ この曲を聴く https://big-up.style/Johm0IRmHp
RAq Profile https://mybase.fan/raq
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